こんにちは、研究員の「ゆでたま」です。
サイコセラピー研究所TVでご紹介した、電気無けいれん療法(mECT)に関する番外編その2です。
月に何本も観に行くような映画好きに、過去観た中でベストはと聞かれたら、あれもこれもと迷うに違いないんですが、その中に必ず入ってそうなのが、
「カッコーの巣の上で」です。
1975年に公開され、アカデミー賞主要5部門を受賞したアメリカン・ニューシネマの代表作。
動画の中でも触れていますが精神病院に入院した主人公が病院で騒ぎを起こしたため、懲罰として、意識のあるまま頭に電気を流されて激しく痙攣する、という衝撃的なシーンがあります。
顔が紅潮して、なんかリアルですね。
米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学のJonathan Sadowsky教授がTHE CONVERSATIONに寄稿した記事によれば、
この作品はECTをセンセーショナルに描いているが、舞台となった50年代にこの話が完全に嘘っぱちで無かったことを把握せずに、ECTの悪名に関する歴史的背景を理解したとは言えない、のだそうです。
“Cuckoo’s Nest,” and many other depictions, are sensational, but we cannot grasp the historical background to the stigma around ECT if we do not acknowledge that “Cuckoo’s Nest,” while released as a movie in 1975, was not completely unrealistic for the era it depicts, the 1950s.
つまり、過去には、懲罰としてECTが意識のあるまま実施されていたことが実際にあった、ということですね。
動画でご案内したような、全身麻酔や筋弛緩剤を使って苦痛や危険を避けるという方法は、実は早くから知られていたものの、それがスタンダードになるまでには、しばらく時間がかかった、ようでして、
Now there are ways to mitigate those dangers. Current practice, known as modified ECT, uses muscle relaxants to avoid the physical dangers of a seizure and anesthesia to avoid pain from the electricity.These modifications were learned early, but it took a while for them to become standard practice.
ホモセクシャルが病気だとみなされて、治療としてECTが使われたことまであったそうで、
そんなこんなで歴史の流れで見ると、ECTが恐怖の対象となるにはそれなりの理由があり、そうした恐怖感と、60年代に広がった反権威主義の流れとが相まって、極端な場合は精神障害という概念さえ否定する反精神医学の運動につながってゆき、
そこで最も強い拒絶にあったのが身体療法、中でもECTだったということなんですね。
In its most extreme versions, the anti-psychiatry movement rejected the very idea of mental illness. But physical treatments, and most especially ECT, aroused its strongest rejections.
反精神医学の流れでは、「ECTのような身体療法」を否定する代わりに、「対話療法」が支持されたそうですが、Sadowsky教授は、反精神医学運動のそうした姿勢は、ECTがなぜ深い対立をもたらすのか理解するヒントになる、と指摘しています。
This provides another clue about why ECT occasions such deep divides. By acting so directly on the body, without any delving into the life history of the patient, ECT’s powerful effects raise questions about what mental illness is, and what kind of psychiatry is best. It evens raises questions about who we are, and what a person is.
直接肉体に働きかけて、患者の人生経験を一切掘り下げることないまま、強力な効果をもたらすECTは、
精神疾患とは何なのか、どのような精神医学が最善か、
あるいは、
我々は一体何者で、人間って何なのか、という疑問さえもたらす。
つまり、ECT関連の対立は、実は「心身問題」という大きな、伝統的な論点にまでつながっている、というわけですね。
ECTの施術は60年代、70年代にかけて減少してゆきますが、80年代初旬から回復します。キャリー・フィッシャーの回想録のような、患者サイドからの肯定的な描写も出てくるようになり、今では米国では10万人がECTを受けていると見積もられているそうです。
とは言いつつも、ECTの悪いイメージ”stigma”は、未だに解消しそうにありませんが・・・。
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