薬剤師による統合失調症と薬についての話

薬剤師による統合失調症と薬についての話

精神科の治療は医師による薬物療法を中心に行われるのが一般的です。薬物療法と同時に人間関係の改善や社会適応能力の向上を図る努力を医療スタッフの助力を得ながら行われますが、あくまで治療の中心はお薬です。したがって、精神疾患で精神科にかかったときは、症状にもよりますが、治療のためにお薬が処方される場合が多くなります。

今回は統合失調症を例に挙げて、治療のために処方されるお薬をテーマに考えてゆきたいと思います。統合失調症で既に治療を受けておられる方を想定して書いていますが、統合失調症に関心をお持ちの方にも参考にしていただければと思います。

お薬の大切さを理解する

疾患の治療の中心に薬物療法がある、という点でお薬が大切であるということは言うまでもありませんが、なぜ、どのように大切なのかについても理解しておく必要があります。

統合失調症に使われる薬にはどのようなものがあるのか、その中で自分に処方されたお薬はどのように働くのか、また、そのお薬が精神疾患の症状を改善するのはなぜか等、基本的なことは押さえておきたいものです。

お薬のことを理解することは、自分の治療が今どのように行われているのかを理解することでもあります。主治医から病気や処方されるお薬について説明を受けた時に、主治医が何を話しているのかが全くわからない、ということの無いよう、ある程度の予備知識は持っておく方が良いですね。

統合失調症の症状

まずは自分の症状を理解することから始めてみましょう。同じ統合失調症と言っても人それぞれです。症状の出方や重さによって処方されるお薬も変わってきます。自分の症状が今どんな状態なのか、客観的に把握しておくことが、自分の治療の状況やお薬のことを理解するうえでどうしても欠かせません。

統合失調症の症状にはいくつか特徴があります。自分の症状を理解するためには、その特徴毎にチェックしてゆくのが近道です。

統合失調症の症状は陽性症状と陰性症状の大きく二つに分かれます。まず陽性症状ですが、4つの項目でチェックします。

統合失調症症状チェック
(陽性症状主要4項目)

1.感情のコントロールが効かなくなる

例えば、以下のような気分になったことはありませんか
□感情的になりやすい
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□イライラしやすい
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□大声を上げたくなる
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)、
□気が高まって眠れない
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

2.誰かに支配されているように感じる

例えば、以下のような感覚です。
□自分の考えが誰かに伝わってしまっている
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□自分の考えが他人に操られている
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

3.現実にはないものをあるように感じる

例えば、以下のような感覚です。
□ささやいているような声が聞こえる
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□他人に見えないものが自分にだけ見える
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□無臭の場所でも異様なにおいを感じる
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

4.現実にはないことを信じ込む

例えば、以下のような経験です。
□自分の悪口を言われているような気がする
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□盗聴や監視をされているような気がする
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□食事や薬に毒が入っているような気がする
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

これらのポイントがあてはまるか、あてはまらないかをチェックしてゆくわけですが、チェックの際にはそれだけでなく、以前より軽くなった(あるいは重くなった)項目や以前はあったが無くなった(あるいは以前は無かったが発生した)項目が無いかどうかも思い出しましょう。飲んでいるお薬と関係している可能性もあり、症状の変化も重要なポイントなのです。

症状の重さを考えるときの基準は、自分でコントロールできるかどうかが一つの目安になります。例えば、現実には存在しないささやきや、悪口が聞こえる場合、それは現実に存在しないことが分かっていて、聞き流すことができるかどうか。感情が高ぶってしまっても、なんとか大声を出さずに済むかどうか、等です。

自分でコントロールが効かないほど症状が重くなると、悪口が聞こえてそのまま自殺したくなったり、大声を出してしまったり、暴力を振るいたくなったりと、日常生活を営むことが難しくなります。つまり、直ぐに手を打たねばならない状況かどうか、という判断の目安にもなるわけで、結果的に、お薬の種類や量の見直しにつながることもあるのです。

統合失調症には陽性症状の他に陰性症状もあるのですが、先に病気そのものについて見ておきたいと思います。

病気に対する理解

統合失調症がどんな病気なのかをみてゆきましょう。どんな病気なのかを理解しておかなければ、お薬がどう効いてくるのかも理解することはできません。症状が出ているときは、病気について医師から説明を受けても複雑で理解できないと感じるかも知れません。そんな時は家族と一緒に聞いてもらっておくと良いかも知れません。

ドーパミン仮説

統合失調症は神経伝達物質が関連していることが分かっています。中でも、ドーパミンが関連しているとの仮説が有力です。

ドーパミン仮説によると、統合失調症の陽性症状はドーパンミンのバランスが崩れることによって発症します。遺伝や環境要因に加え、何等かのストレスをきっかけに、普段は平常値に保たれているドーパミンのバランスが崩れます。ドーパミンが過剰となった結果現れるのが陽性症状です。

統合失調症の陽性症状に対するお薬は、ドーパミンの働きを弱める作用を持つものが多いのはそのためです。

抗精神病薬の働き方

統合失調症に処方されるお薬は抗精神病薬と呼ばれています。ドーパミンが過剰の陽性症状に対して、抗精神薬はドーパミン受容体の一部の働きを遮断します。その結果ドーパミンの作用を弱めることができるのです。

治療の目標を理解する

統合失調症の症状は人によりそれぞれ異なります。また、発症からどのような経過をたどっているのかという点も重要です。あくまで目安で、逆方向に戻ってゆくこともあり得ますが、統合失調症には「前兆期」、「急性期」、「休息期」、「回復期」の4つのステージがあると言われています。

「急性期」には、幻聴、妄想、興奮といった先にみた陽性症状が目立ち、これを抑えることが治療の目標となることが多くなります。

逆に、急性期が過ぎて落ち着いてくると「回復期」に移行し陰性症状が中心となります。統合失調症と言えば陽性症状がすぐに思い浮かびますが陰性症状は陰性症状で対処しなければなりません。陰性症状について陽性症状と同じく4つのポイントで見てみましょう。

(陰性症状主要4項目)

1.頭の回転や整理が追い付かなくなる

  例えばこんな経験です
  □言葉が詰まってしまう
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
□話についてゆけない
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
  □話題についてゆけない
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

2.意欲や気力が湧かない

  例えばこんな気分です
  □何もやる気が起きない
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
  □以前夢中になったことにも興味が起きない
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

3.喜怒哀楽の表現が上手にできなくなる

  例えばこんな経験です
  □表情がうまく作れない
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
  □何をしても楽しいと感じない
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

4.自分の殻に閉じこもりたくなる

  例えばこんな経験です
  □人との関わりが億劫になる
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)
  □自宅から出たくなくなる/引きこもりがちになる
(該当しない  該当する/以前より重い/軽い)

陽性症状は、脳内のドーパミンのバランスが崩れて、過剰となって起こると説明しましたが、陰性症状も同じくドーパミンのバランスに起因し、脳の一部で陽性症状の原因となるドーパミンの過剰があるなか、他の部位でドーパミンの機能低下が同時に起きているため、同じ統合失調症の症状で陽性症状と陰性症状が併存すると考えられています。

抗精神薬の種類(定型抗精神薬、非定型抗精神薬)

統合失調症で処方される抗精神薬は1950年代から開発され始め、ドーパミンの抑制作用によって統合失調症の陽性症状をうまく抑えることができるようになりました。効果的な薬剤の開発は、統合失調症の治療を薬物中心に変える画期的出来事だったわけですが課題もありました。

それは一つにはドーパミンの抑制作用が強すぎて錐体外路症状という不随意運動の生じる副作用が起きやすいという欠点です。もう一点としては、陰性症状に対しては効果がありませんでした。

こうした点にも対応して、つまり、副作用を抑制しつつ、陰性症状に対しても効果が出るように様々な神経経路に作用するよう開発されたのが、非定型抗精神薬と呼ばれるお薬で、従来型のお薬である定型抗精神薬と区別されています。現在では、後発の非定型薬が処方の中心とされることが多いですが、人それぞれの症状に合わせて最適な効果が得られるよう、お薬の特性に応じて定型薬も使われています。

薬剤師による疾病・服薬教育

最近では、薬剤師の病棟業務の中に、直接入院患者さんに対してアドバイスを行うことが含まれるようになりました。薬剤師は、お薬が入院患者にとって有効性・安全性・副作用の観点から最適なものになっているかどうかや、精神的安定を含めた患者さんの生活の質の点からみても問題がないか等を見てゆきます。

お薬は、一人一人異なる症状に応じて処方されています。その処方が想定通りの効果が出ているか、副作用等が出ていないか等を薬剤師が詳しく確認してゆきます。

例えば、患者さんから、幻聴が聞こえるとの訴えがあった場合、その症状の強さを確認して今のお薬が適正かどうかをチェックしたり、幻聴が発生する時間帯と服薬の時間帯を比較して、薬の効き目が時間帯によって切れていないかどうか、あるいは効きすぎていないかを確認したりします。症状や体調の変化を丹念に聴き取り、お薬の効き具合を見てゆくわけですね。

こうして確認した情報は、医師や担当看護師にフィードバックされ、必要に応じて処方や看護体制に反映してゆきます。様々な観点からチームで患者さんを支えてゆきます。

薬剤師は、患者さんの状況を確認するだけでなく、病気についての理解を深める疾病教育や、服薬教育も行います。症状が軽くなったり、あるいは病気であるとの認識が浅いと、薬を飲むことを忘れたり自己判断で止めてしまうことがあります。しかし、統合失調症においてはしっかりと指示された通りにお薬を飲むことが非常に大切で、服用を自己判断でやめた場合、再発率が5倍になるとのデータもあります。

まとめ

以上、統合失調症とお薬についてざっと書かせていただきました。統合失調症の治療は薬物療法が中心であること、人それぞれの症状の種類や強さに合うお薬が処方されること、お薬がうまく働くよう薬剤師も積極的に関わっていること等を見てきましたが、いずれも、この病気と戦ってゆくうえで、いかにお薬が大切かを示しているのではないでしょうか。

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